ロードバイクの実走比較、そのタイム差は本当に機材差なのか? タイムのブレとインプレの価値を考える

鹿野山山頂付近のバス停前に停めたロードバイク ロードバイク機材
同じコースを何度も走ると、実走タイムは思っている以上に揃わないことがあります。

近年、急速な技術の進歩によりロードバイクの走行データは非常に細かく見られるようになりました。

速度、心拍数、ケイデンスだけではなく、パワーメーターの普及によって、どれくらいの出力で走っていたのかまで数値として確認できるようになっています。

そのため、ロードバイクの速さや機材の性能についても、以前よりも数値で語られることが増えました。

「何ワットで何分何秒だったのか」
「同じコースで何秒速くなったのか」
「ホイールを替えたらタイムが縮んだのか」
「タイヤを替えたら平均速度が上がったのか」

こういった比較はとても分かりやすく、見ていて面白いものです。

もちろん、数値で見ることは非常に大切です。
感覚だけでは分からないことも、数値を見ることで整理できることがあります。

しかし、実走におけるロードバイクの速さは、タイムやパワーだけを見れば正しく判断できるのでしょうか。

今回は、実際の走行データをもとに、実走比較におけるタイムのブレと、機材インプレの価値について考えてみたいと思います。

実際のデータを見る

まずはこちらのデータをご覧ください。

同じ機材で走った鹿野山の実走データ比較。近いパワーでもタイムに差が出ている
同じ機材、近いパワー、近い心拍数でも、実走ではタイムに差が出ることがあります。

これは、同じコースを、同じ機材で走った実走データです。
もちろん乗り方を変えたわけでもなく、意図的に強度を変えたわけでもありません。

このデータは、ただ適当に走ったものではなく、パワーメーターを見ながら一定強度を維持するように走ったSSTの記録です。

そのため、実走としてはかなり強度を揃えたデータと言えると思います。
それでも、タイムにはこれだけの差が出ています。

細かく言えば、最後の1本は終盤だけ少し上げ気味ではありました。
しかし、全体として見ればかなり近い条件で走っているデータです。

なお、画像のStrava上ではタイムの速い順に表示されていますが、実際の走行順は以下の通りです。

実際の走行順 平均心拍 平均パワー タイム 最速との差
1本目 174 bpm 293 W 15分58秒 +24秒
2本目 173 bpm 292 W 15分57秒 +23秒
3本目 175 bpm 294 W 15分34秒 基準

最大差は24秒です。

24秒という差は、ロードバイクの機材比較ではかなり大きく見える差です。

ちなみに、24秒という差を距離に置き換えると、さらに大きく感じます。

仮に時速20kmで上っていたとすると、24秒差は約133mの差になります。

もし機材比較で「決戦用ホイールに替えたら、同じ上りで約133m先まで進めました」と言われたら、かなり大きな差に感じるはずです。

しかし今回のデータでは、これは同じ日に、同じ機材で、繰り返し走った中で出た差です。

もしこれが、

「普段用ホイールと決戦用ホイールを比較しました」
「タイヤを交換したら24秒短縮しました」
「BBを交換したら明らかに速くなりました」

という話だったら、かなり大きな差に見えるはずです。

約15分で24秒も速くなるなら、決戦用機材として使いたいと思う方も少なくないと思います。

しかし実際には、これは同じ日に、同じ機材で、繰り返し走った結果です。

ここが非常に面白いところです。

同じ機材でも、同じコースでも、同じようなパワーでも、実走ではこれくらいのタイム差が普通に出ることがあります。

つまり、実走比較におけるタイム差は、必ずしもそのまま機材差を表しているとは限らないということです。

なぜ、同じようなパワーでもタイム差が出るのか

では、なぜ同じようなパワーでもタイム差が出るのでしょうか。

平均パワーがほぼ同じで、心拍数も近いのであれば、タイムもほぼ同じになりそうに思えます。
しかし実走では、そう単純にはいきません。

実走には、ローラー台や室内テストとは違い、さまざまな要素が重なります。

風の影響

まず大きいのが風です。

同じコースを同じパワーで走っていても、向かい風、追い風、横風でタイムは変わります。

特にロードバイクは空気抵抗の影響が非常に大きいため、わずかな風の違いでも速度に影響します。
実走では「今日は同じように踏めているのに進まない」ということが普通に起こります。

気温や空気の密度

気温や空気の密度も影響します。

気温が低く空気密度が高い日は、同じパワーでも空気抵抗が増えやすくなります。
逆に気温が高く空気が軽い日は、同じ出力でも速度が伸びやすいことがあります。

もちろん暑すぎれば身体への負担が増えるため、単純に高温が有利という話ではありません。
ただ、同じパワーでも外気条件によって速度が変わることはあります。

ライン取りやペーシング

走り方の違いも大きな要素です。

同じ平均パワーでも、どこで踏んだかによってタイムは変わります。

前半で踏みすぎたのか。
後半まで余裕を残せたのか。
勾配変化に合わせてうまく踏めたのか。
無駄な加減速が多かったのか。

同じ293Wでも、効率よく使った293Wと、無駄を含んだ293Wでは結果が変わります。

また、ライン取りやコーナーの処理、上体の起き方、ダンシングの入れ方などでも、実走では細かな差が出ます。(※なお、今回はダンシングはほぼしていません。)

こういった小さな違いが重なることで、数秒どころか、十数秒から数十秒の差になることがあります。

特に重要なのは、平均パワーが近いからといって、同じ走りをしているとは限らないということです。

同じ293Wでも、前半で使いすぎた293Wと、後半まで余裕を残した293Wでは意味が変わります。勾配変化に合わせてうまく踏めたのか、無駄な加減速が多かったのか、空力姿勢を保てていたのかによっても、タイムは変わります。

パワーは同じでも、どこで、どのように使ったかによって結果は変わります。

これが実走の難しさです。

また、機材側のコンディションも毎回完全に同じとは限りません。

パワーは同じでも、どこで、どのように、どれだけ無駄なく使ったかによって、タイムは変わります。

これが実走の難しさです。

また、機材側のコンディションも毎回完全に同じとは限りません。

たとえば、気温変化によるタイヤ空気圧の微妙な変化、タイヤの温まり方、チェーンオイルの状態、駆動系の汚れ具合などでも、走行抵抗はわずかに変わる可能性があります。

もちろん、今回のタイム差の原因をそれらだと断定するわけではありません。
ただ、実走では人間側や環境側だけでなく、機材側のコンディションも完全に固定できるわけではない、ということです。

信頼性を上げるために必要なデータ数

では、実走比較である程度信頼できるデータを取るには、何本くらい走れば良いのでしょうか。

これは、簡単に「何本あれば大丈夫」と言い切れるものではありません。

なぜなら、必要な本数は、見たい差の大きさと、実走でどれくらいタイムがブレるかによって変わるからです。

たとえば、同じ機材でも15分程度の区間で20秒前後のブレが出る場合、1本ずつの比較で10秒や20秒の差を機材差として判断するのはかなり難しくなります。

今回のように、同じようなパワー、同じ機材でも最大24秒の差が出ている場合、その範囲内のタイム差は「機材の差」ではなく「実走のブレ」で説明できてしまう可能性があります。

一般的な感覚としては、実走比較では少なくともこのくらいの本数は欲しいところです。

本数 信頼性の目安 判断できること
1本ずつ かなり低い その日の結果としては面白いが、機材差とは言いにくい
各条件3本程度 参考程度 大きな差があれば傾向は見えるが、まだブレの影響が大きい
各条件5本程度 最低限の傾向確認 平均値やバラつきを見れば、少し傾向が見えてくる
各条件10本以上 比較としてかなり良くなる 偶然の影響が減り、傾向を判断しやすくなる
各条件20本以上 かなり強い 小さな差まで見たい場合に必要になってくる

もちろん、これは厳密な統計処理をした場合の絶対的な基準ではありません。

しかし、実走で機材差を見ようとするなら、少なくとも「1本速かった」「1本遅かった」だけで判断するのはかなり危険です。

特に、差が小さい場合ほど本数は必要になります。

たとえば、明らかに30秒、40秒以上違うような大きな差であれば、少ない本数でも傾向は見えやすくなります。
しかし、5秒、10秒、15秒程度の差を見ようとするなら、実走のブレに埋もれてしまう可能性が高くなります。

現実的には、同じコースを各機材で10本、20本と走るのはかなり大変です。

しかも、それだけ走ったとしても、風、気温、疲労、路面状況などを完全に揃えることはできません。

だからこそ、実走比較では「何秒速かったか」だけではなく、

  • 複数回走っても同じ傾向が出るか
  • 平均値だけでなく、バラつきも小さいか
  • 体感と数値が一致しているか
  • 遅い日でも極端に悪くならないか
  • 速い1本だけを切り取っていないか

といった見方が大切になります。

数は多いほど良いです。

ただし、数を増やしても完全な答えになるわけではありません。
それでも、1本だけよりは3本、3本よりは5本、5本よりは10本のほうが、明らかに信頼性は高くなります。

実走比較で大切なのは、1本の結果に飛びつくことではなく、複数回のデータから傾向を見ることです。

実走テストは意味がないのか

では、実走テストには意味がないのでしょうか。

私は、そうは思いません。

むしろ、実走でしか分からないことはたくさんあります。

たとえば、乗り心地や安定感、コーナーでの安心感、登坂でのリズム、下りでの扱いやすさなどは、実際に走らないと分かりにくい部分です。
荒れた路面で速度を維持しやすいか、長く踏み続けたときに疲れにくいか、自分の走り方に合っているかどうかも、カタログスペックや室内テストだけでは判断しきれません。

人の感覚は、かなり鋭い部分があります。

タイヤの転がり感、ホイールの反応、ハンドルのしなり、ブレーキのタッチ、サドルの違和感など、数値だけでは拾いきれない情報を感じ取れることもあります。

一方で、人の感覚はかなり曖昧な部分もあります。

高かったから良いと思いたい。
新品だから速く感じる。
見た目が好きだから印象が良くなる。
評判が良いから自分も良いと感じる。
たまたま調子が良かった日の印象が強く残る。

こういったことも、普通に起こります。

つまり、実走インプレには大きな価値があります。
ただし、それは絶対的な答えではありません。

実走で感じたことは大切です。
しかし、その感覚が機材そのものの性能を正確に表しているのか、それともその日の条件や期待感、体調によるものなのかは、少し冷静に見る必要があります。

だからこそ、実走インプレは「信じるか、信じないか」ではなく、どう読み取るかが大切です。

実走でしか分からない感覚を大切にしながらも、その感覚だけで結論を急がないこと。
これが、機材インプレを見るうえで重要だと思います。

良い機材と、自分に合う機材

ロードバイクの機材には、確かに良し悪しがあります。

転がり抵抗の低いタイヤ、空力の良いホイール、剛性の高いフレーム、精度の高いベアリング、扱いやすいハンドル、制動力とコントロール性に優れたブレーキ。

こういった性能差は確かにあります。

しかし、良い機材がすべての人に合うとは限りません。

体重、脚質、走るコース、好きな空気圧、登り中心なのか平坦中心なのか、レースで使うのかロングライドで使うのか。
何を重視するかによって、合う機材は変わります。

誰かにとって最高の機材が、自分にとっても最高とは限りません。

逆に、世間的にはそこまで大きく取り上げられていない機材でも、自分の走り方には非常に合う場合があります。

だからこそ、機材選びでは、単に「速い」「軽い」「評判が良い」だけではなく、自分の使い方に合っているかを考えることが大切です。

そして、そのためには情報の見方も重要になります。

今は、ロードバイクに関する情報が非常に多い時代です。
メーカーの説明、ショップの紹介、YouTube、SNS、ブログ、レビューサイト、個人の感想など、さまざまな情報があふれるように入ってきます。

どれも参考になります。
しかし、すべてをそのまま信じる必要はありません。

大切なのは、その情報がどのような背景から出てきたものなのかを考えることです。

誰が、どんな環境で、どれくらい使って、どんな条件で話しているのか。
良い面だけでなく、悪い面も語られているのか。
その人はその機材を使い続けているのか。
自分の使い方にも当てはまる内容なのか。

こういった部分まで見ていくと、情報の見え方はかなり変わります。

機材インプレは、ただ信じるものではありません。
かといって、疑って否定するだけのものでもありません。

その情報の背景を見ながら、自分にとって役に立つ部分を取り出していくものだと思います。

実走テストのタイム差も、機材インプレも、それだけで絶対的な答えになるわけではありません。

しかし、背景を理解して読めば、機材選びにとって非常に価値のある情報になります。

まとめ

ロードバイクの実走比較は、とても面白いものです。

実際に走った結果だからこそ説得力がありますし、数値として見えると分かりやすく感じます。

しかし今回のデータのように、同じライダー、同じコース、同じ機材、近いパワーで走っても、タイムは普通に変わります。

つまり、1本だけの実走比較で出たタイム差を、そのまま機材差として受け取るのは慎重に考えたほうが良いということです。

機材差がないという話ではありません。
機材差は確かにあります。

ただし、その差を見るためには、実走にはブレがあるという前提が必要です。

私自身、以前に旧ブログでも似た内容の記事を書いたことがあります。
そのときは、鹿野山の上りを何十本も走り、データを見比べました。

そこで強く感じたのは、実走データは思っている以上に揃わないということです。

同じコースを走っても、同じような強度で走っても、結果はきれいには並びません。
風、気温、走り方、疲労、路面状況、交通状況。
そういったものが少しずつ重なり、タイムは普通に変わります。

実走とは、良くも悪くもそういうものなのだと思います。

今は、昔に比べてさまざまなデータを数字で確認できる時代になりました。
パワー、心拍、速度、タイム、ケイデンスなど、走りを客観的に見るための材料は非常に増えています。

それはとても良いことです。

しかし、数字だけを見ればすべてが分かるわけではありません。
逆に、感覚だけを信じれば良いという話でもありません。

大切なのは、数字と感覚の両方を見ながら、その背景まで考えることだと思います。

その機材をどれくらい使っているのか。
どのような条件で使っているのか。
どれくらいの期間、どれくらいの距離を走ったうえでの感想なのか。
その人の走り方や使い方は、自分に近いのか。

そういった背景によって、インプレの意味は大きく変わります。

実走テストは面白いですし、機材インプレにも価値があります。

ただし、数字も感覚も、そのまま鵜呑みにするものではありません。

タイム差の裏にあるブレを理解し、インプレの背景を見極めること。
情報の中から、本当に自分にとって価値のあるものを見抜くこと。

それが、本当に自分に合う機材を選ぶうえで大切なことだと思います。