サイクリストはなぜパンが好きなのか

ライド途中に外で食べる袋入りのパンと缶コーヒー ロードバイクコラム
サイクリストにとって、パンと缶コーヒーがあればそれはもう最高です。

サイクリストは、なぜかパンが好きです。

もちろん全員が全員、そうではないとは思います。
当然、米派の人もいるでしょうし、和菓子派の人もいるでしょうし、補給はジェルとドリンクだけで十分というストイックな人もいると思います。

ただ、それでも自転車に乗っているサイクリストの行き先として、パン屋はかなり強い存在感があります。

「今日はどこまで走ろうか」
そう考えたときに、目的地としてちょうど良い場所にパン屋がある。

峠をひとつ越えた先。
川沿いをしばらく走った先。
片道30kmとか、50kmとか、少し頑張れば行ける距離。

そう、不思議なことに、パン屋はサイクリストにとってちょうど良い場所にあるのです。

本当は、おしゃれなカフェでゆっくり休むのも良いのかもしれません。

いちごとホイップクリームがのった厚切りトースト

ただ、サイクルジャージは自転車の上では正装ですが、自転車を降りれば、ただのピチピチです。

汗に濡れ、全身が少し塩っぽくなったサイクリストの集団が、ピチピチのサイクルジャージ姿でカフェに入っていくのは、さすがに少し遠慮してしまいます。

さらに、お店によっては自転車をどこに置くかも悩みますし、ロードバイクにとって最大の天敵である盗難の心配もあります。

その点、パン屋はかなりありがたい存在です。

さっと入って、さっと選んで、さっと買える。テイクアウトもしやすく、外でさっと食べられるのも良いところです。店内で長く滞在しなくてもいいので、サイクリスト側としても気を使いすぎずに済みます。

それに、パン屋は比較的朝早くから開いているお店が多いのも助かります。

サイクリストの朝は、なぜか早いです。夏場は暑くなる前に走り出したいですし、ロングライドなら午前中のうちに距離を稼いでおきたい。そうなると、普通の飲食店が開く時間には、すでにそこそこ走ってしまっていることもあります。

その点、朝から開いているパン屋は実にありがたい存在です。

さらに、サイクルラックが置いてあるお店なら、なおさら安心感があります。少なくともそのお店は、サイクリストという生き物を、完全には拒絶していないということです。

これはかなり大きいです。

サイクルラックがあるだけで、「ここは入っても大丈夫そうだ」と思えます。ロードバイクを立てかける場所に悩まなくて済みます。

お店によっては、外にベンチや簡単な休憩スペースが用意されていることもあります。これもサイクリストにとってはかなりありがたいポイントで、バイクを見ながらパンを食べられる安心感もあります。

正直なところ、汗をかいたサイクルジャージ姿で店内に長くいるよりも、外のベンチでさっと食べられるほうが気が楽です。バイクも見えるし、他のお客さんにも気を使いすぎずに済む。パン屋の外にあるベンチは、サイクリストにとってちょっとしたオアシスなのです。

ドリンクを買って、パンをひとつふたつ選んで、店先や近くの公園で食べる。

それだけで、サイクリストにとっては十分すぎるほどです。

パンという食べ物自体も、自転車との相性がかなり良いと思います。

軽く、持ち運びやすい。
片手で食べられる。
甘いものも、しょっぱいものもある。
胃に重すぎず、それでいてちゃんと糖質が入る。

ロードバイクに乗っていると、補給はかなり重要です。
走っている最中にエネルギーが切れると、一気に脚が止まります。いわゆるハンガーノックというやつです。

実はパンは、プロレースでも昔から定番の補給食でした。

レース中の補給食を入れた「サコッシュ」が選手へ渡されていた時代には、小さく切ったサンドイッチやジャムを詰め込んだパン、パニーニなどがよく入っていました。

もちろん現在はエナジージェルやエナジーバーなども一般的になりましたが、パンがサイクリングと相性の良い食べ物であることは、昔から変わっていません。

その点、パンは実に都合が良いです。

あんぱんやクリームパンは糖質補給。
カレーパンは塩分補給。
クロワッサンは……まあ、100km超えのロングライドなら多少の脂質もゼロカロリーということにしておきましょう。

サイクリストは、パンに対してかなり寛容です。
普段なら少し気になるカロリーも、ライド中やライド後ならすべて免罪符にできます。

「今日は走ったから大丈夫」
「このあとまだ走るから必要」
「これは補給だから」
「むしろ食べないほうが危ない」

こうして、ほとんどのパンは許されます。

そしてパン屋ライドの良いところは、目的地としての説得力があることです。

「コンビニのおにぎりを買いに100km走ってきました」
と言うと、少し狂気があります。

しかし、
「評判のパン屋まで走ってきました」
と言うと、なぜか急に健康的な趣味に聞こえます。

実際にやっていることは、どちらも自転車で遠くまで食べ物を買いに行っているだけです。
しかしパン屋という言葉には、なぜかライドを正当化する力があります。

サイクリストにとってパンは、単なる食べ物ではありません。

補給であり、目的地であり、休憩の理由であり、ライドの言い訳でもある素敵な存在です。

「今日はパン屋まで軽く流してきた」

そう言いながら、実際には普通に100km近く走っていたりします。
軽くとは何なのか、という話です。

でも、それでいいのだと思います。

ロードバイクは、速く走るための道具でもあります。
トレーニングのための道具でもあります。
レースで勝つための機材でもあります。

ただ、それだけではなく、どこかへ行くための乗り物でもあります。

おいしいパン屋を目指して走る。
途中の道を楽しむ。
少し登って、少し向かい風に苦しんで、ようやく着いた先でパンを食べる。

そういう時間も、ロードバイクのかなり幸せな使い方だと思います。

たぶんサイクリストは、パンが好きなのです。

でも、もしかすると少し違うのかもしれません。

パンを食べるために自転車に乗っているのではなく、
自転車に乗るためにパン屋を探しているのでもなく、
その両方がちょうど良く混ざっている。

だからパンライドは、いつまでも楽しいのだと思います。

サイクリストにとってパンは、たぶん一番自転車に近い食べ物です。

軽くて、持ち運べて、エネルギーになって、目的地にもなる。

そして何より、
パンを買いに行くと言えば、100km走っても自然に聞こえる。

これが、サイクリストがパンを好きな理由なのかもしれません。

いや、違うかもしれません。

本当はただ、走ったあとに食べるパンの味わいこそ、控えめに言って最高なわけです。