パワーメーターの数値はどこまで信じるべきか。実走データと体感のズレを分析した結果

ロードバイクに取り付けられたDURA-ACEパワーメータークランク トレーニング
パワーメーターは非常に便利な機材ですが、数値だけを絶対視しすぎないことも大切です。

昨今パワーメーターの低価格化の影響もあり、一般的な機材の一部となってきたパワーメーターです。ロードバイクのトレーニングにおいて、パワーメーターは非常に便利な機材です。

今、自分がどれぐらいの強度で走っているのか。
前回と比べて、どのぐらい踏めているのか。
狙ったトレーニング強度に対して、実際にどのぐらいの出力が出ているのか。

こういったことを、ワットという数値で確認できます。

パワーメーターの数値はとても便利です。
しかし、その数値だけを無条件に信じてよいのか。ということです。

インターバルトレーニングなどで同じコースをデータを取りながら走っていると、実走データと体感がどうにも噛み合わないときがあります。そんな時は最後に何を信じるべきなのか。

今回は、実際に走ったデータと体感のズレをもとに、パワーメーターの数値との向き合い方について考えてみます。

パワーメーターはの重要性

まず大前提として、パワーメーターは非常に便利な機材です。

ロードバイクでは、速度やタイムだけで運動強度を判断することは難しいです。

向かい風なら速度は落ち、タイムは遅くなります。
逆に追い風なら、楽に速度が出て、タイムも縮まりやすくなります。
登り、下り、路面状況、信号、交通状況、ペーシングによっても速度は変わります。

つまり、同じ速度で走っていても、実際の負荷が同じとは限りません。

その点、パワーメーターは、ライダーがどれぐらいの出力を出しているのかを数値として表示してくれます。

これは、トレーニングを行ううえで非常に大きなメリットです。

感覚だけでSSTを行うと、序盤は少し楽に入りすぎたり、逆に後半で失速するほど高く入りすぎたりすることがあります。

しかしパワーメーターがあれば、今その瞬間をどの程度の強度で踏んでいるのかを確認できます。

日常的なライドでも、トレーニングでも、自分の状態を把握するための重要な指標になります。

つまり現在のロードバイクトレーニングにおいては非常に重要な機材であり、私自身も、パワーメーターなしではトレーニングが成り立たないほど重要な機材のひとつだと考えています。

実走データはきれいに揃わない

ただし、パワーメーターがあれば、いかなる時も実走データがすべてきれいに揃うかというと、先日の記事でもご紹介させていただいた通り、その限りではありません。

同じコースを同じパワーで走っても、実走では毎回同じ結果になるとは限りません。

同じ機材。
同じ空気圧。
同じようなパワー。
同じような体調。

条件をできるだけ揃えたとしても、タイムが変わることは普通にあることです。

風、気温、路面状況、ライン取り、ペーシング、交通状況、疲労状態など、実走には多くの要素が関係するためです。

これは機材比較でも、トレーニング分析でも同じです。

ですので1本のデータだけを見て、すぐに結論を出すことはできません。

タイムだけを見て判断するのは危険ですし、速度だけを見ても判断できません。
パワーだけを見ても、すべてがわかるわけではありません。

実走データは価値があります。
しかし、実走データはそもそもきれいに揃わないものでもあります。

この前提を考慮したうえでの、今回の本題に入ります。

実走データを取得した登坂区間の道路
実走では風、気温、路面状況、ペーシングなど、さまざまな要素が重なります。

違和感が拭えないデータ

実走ではデータが揃わないということを考慮して上でも、今回少し気になるデータが取れました。

同じ登坂区間を、別日に走ったときのデータです。

もちろん日が違いますので、完全に同一条件ではありません。
実走である以上、たとえ同じ日だったとしても、まったく同じ条件を作ることはできません。

ただ、条件としてはかなり近い部分もありました。

ウェア、その他の装備、空気圧も同じです。
風も双方とも穏やかでした。

違っていたのは、主に気温で、5℃程度の差がありました。

気温が高い日は空気密度が下がるため、空気抵抗という点ではわずかに有利に働く可能性があります。一方で、心拍は上がりやすく、体感的なきつさや走行後の疲労感には影響が出やすくなります。

そのため、今回の違和感を気温差だけで説明するのは難しいと感じました。

ここからが重要なところです。

実際に走った感覚としては、後日のほうが明らかにきつく感じました。

パワーを揃えたはずの走行中は心拍も高く出ていました。
その日の練習後の疲労感も大きかったです。
終わった直後だけではなく、その後にパソコンを触っているときにも、身体の疲労感がかなり残っていました。

つまり、身体側の感覚としては、しっかり負荷がかかっていた可能性が高いと思われます。

しかし、パワーメーターの表示を見ると、そこまで大きくパワーが上がっているわけではありませんでした。

同じようなパワーなのに疲労感の違い、ここに違和感がありました。

数値、タイム、体感が噛み合わない

今回の違和感が残るデータを細かく見ていくと、パワーそのものは大きく変わっていませんでした。

同じぐらいのパワー。
あるいは、少し高いぐらいのパワー。

これだけであれば、さまざまな要因が考えられます。
前回の記事でも書いたように、実走では同じようなパワーで走ってもタイムがばらつくことはあります。

ただ、今回はそれだけではありませんでした。

パワー差だけでは説明しにくいタイム差が出ていたからです。

両日ともに、同じぐらいのパワー、もしくは微妙に高いぐらいのパワーで走ったにもかかわらず、後日のほうが体感的には明らかにきつく、心拍も高く、走行後の疲労感も強く残りました。
そしてタイムは、明らかに速かったのです。

それも3本の上り全てで同じように、パワーは同様であるにも関わらず、心拍数は高く、タイムが速いのです。気温以外の条件は大きく変わらない状態で走ったにもかかわらずです。

この結果から考えると、どう考えてもパワーが少し低く出ていた可能性を考えたくなります。

もちろん、それを断定することはできません。

実走データはそもそもブレます。
気温差、その日の体調、細かなペーシング、路面状況、ライン取りなど、関係する要素はいくつもあります。

ただ、それらを考慮しても、どうにもきれいに説明しきれない感じがありました。

例えば疲労が溜まってきつく感じたのかもしれない、しかしそれであればタイムが3本全てにおいて、同じように縮まることはないと思います。

タイムだけでも、パワーだけでも、心拍だけでも、体感だけでも判断できません。

そして今回のように、それらを総合的に見ても、なお整合性が取りきれないことがあります。

今回一番引っかかったのは、まさにこの部分でした。

なぜパワーはズレる可能性があるのか

パワーメーターは、非常に便利な機材です。

しかし、パワーメーターは測定機器です。
測定機器である以上、数値が常に完全に正しいとは限りません。

ここで重要なのは、特定のメーカーや特定の製品だけの問題として考えないことです。

パワーメーターの数値は、もともとの製品が持つ精度だけで決まるわけではありません。

取り付け状態、固定トルク、ゼロオフセット、温度変化、バッテリー状態、経年変化など、さまざまな要素の影響を受ける可能性があります。

多くのパワーメーターには温度補正機能がありますが、それでも校正のタイミングや、機材が外気に馴染んでいるかどうかによって、表示値に影響が出る可能性はあります。

また、疲労によってペダリングの癖や左右バランスが変われば、同じように踏んでいるつもりでも、入力の仕方が変わる可能性があります。

ペダル式、クランク式、スパイダー式など、測定方式による違いもあります。

また、実走では路面からの振動、踏み方の違い、左右バランスの変化なども関係してきます。

つまり、パワーメーターは製品そのものの精度だけでなく、取り付け、校正、使用状況、機材状態まで含めて成り立っている測定機器です。

だからこそ、どのパワーメーターであっても、数値がズレる可能性はゼロではありません。

パワーメーターという便利な測定機器を使う以上、どのような製品であっても、数値のズレが起こる可能性はあるという話です。

心拍計とパワーメーター

ここで、心拍数との違いも考える必要があります。

心拍計も完全ではありません。

特に光学式心拍計では、装着状態、汗、振動、気温などの影響で数値が乱れることがあります。

ただし、現在でも精度の良いとされている、胸部バンド式心拍計を適切に装着している場合、同じ人の身体反応を見る指標としては比較的安定しやすいと感じています。

胸部バンド式で正常に計測できていれば、複数の心拍計を使ったとしても、表示される心拍数に大きな差が出ることはほぼありません。

一方でパワーメーターは、クランク、ペダル、スパイダーなどの機材を通して出力を測定します。

心拍計とは違い、複数のパワーメーターを比較すると、同じ走行であっても少なからず差が出ることがあります。これは特定のメーカーだけではなく、パワーメーターという測定機器全体で起こり得ることだと思います。

また、まったく同じパワーメーターを使っていたとしても、条件によって表示パワーに差が出る可能性もあります。

これは、どちらが上で、どちらが下という話ではなく、パワーメーターと心拍計のそもそもの測定方法の違いがあり、パワーメーターは数値としての差を生み出してしまう可能性の高い構造だからです。

心拍数も、パワーも、どちらも大切な指標です。

ただ、今回のように、心拍や体感、走行後の疲労感と、表示パワーがうまく噛み合わないときがあります。

そのときに、パワーだけを正しいものとして扱うことは、本当に正しいのでしょうか。

胸部バンド式心拍計の写真
胸部バンド式心拍計は、身体反応を見る指標として比較的安定しやすいと感じています。

違和感があるときに確認したいこと

もしパワー、心拍、タイム、体感がどうにも噛み合わないと感じた場合は、まず機材側で確認できることを確認しておくと良いと思います。

走行前には、クランク、ペダル、チェーンリング周辺の固定状態を確認します。ある程度走って機材が外気に馴染んだ状態で、ゼロオフセットを行うことも大切です。また、バッテリー残量やファームウェアの確認、同じコースを同じような条件で再度比較することも有効です。

それでも違和感が残る場合は、無理にパワーだけで判断しないことも大切です。その日は心拍、RPE、タイム、走行後の疲労感まで含めて判断することも必要だと思います。

パワーだけを信じるのか

パワーメーターを使っていると、どうしてもワットの数字に意識が向きます。今日は何ワットだったのか、前回より高かったのか低かったのか、目標としていた強度に届いていたのか。数値としてはっきり見えるからこそ、ついその数字を中心に走りを判断したくなります。

もちろん、それはパワーメーターの大きなメリットです。感覚だけでは曖昧になりやすい運動強度を、客観的な数値として確認できることには大きな意味があります。

しかし、数値が出ることで、逆に視点が狭くなることもあります。パワーが低ければ今日は悪かったと感じ、パワーが高ければ今日は良かったと感じる。実際にそう判断したくなる場面は少なくありません。

ただ、本当にそれだけで判断してよいのでしょうか。

今回のように、パワーは大きく変わっていないのに、体感は明らかにきつい。心拍も高く、走行後の疲労感も大きい。そしてタイムはと言うと明らかに速い。こういった違和感のある結果が出たときに、それでもパワーメーターの数値だけを信じてよいのか。今回のデータを見ていて、そこを考えさせられました。

もちろん、体感だけを信じればよいという話でもありません。体感は日によって変わりますし、疲労感も気温や体調、睡眠、前日までの負荷によって変わります。心拍も気温やコンディションの影響を受けますし、タイムも風や路面状況、細かなペーシングによって変わります。

だからこそ、どれかひとつだけを絶対視しないことが大切なのではないかと思います。パワーだけを見るのではなく、タイム、心拍、体感、走行後の疲労感まで含めて考える。そして、それでも整合性が取れないときは、無理に答えを決めつけない。

これは少しおかしいかもしれない。今回は保留して、次のデータでも確認しよう。そう考える冷静さも必要だと思います。

まとめ

パワーメーターは、ロードバイクのトレーニングにおいて非常に便利な機材です。日常的なライドでも、本格的なトレーニングでも、今では欠かせない存在になっています。

ただし、パワーメーターの数値だけが絶対ではありません。実走データはきれいに揃いませんし、タイムは風や路面状況、ペーシングによってブレます。心拍も体調や気温の影響を受けますし、体感も日によって変わります。

そして、パワーメーターの数値も測定機器である以上、常に完全とは限りません。もともとの製品精度だけではなく、取り付け状態、固定トルク、ゼロオフセット、温度変化、バッテリー状態、経年変化などによって、数値が変わる可能性があります。

これらを踏まえても、ときにはパワーの整合性が取れないような場合もあるということです。

そんなとき、それでもパワーだけを信じるのか。心拍を信じるのか。タイムを信じるのか。それとも、自分の体感も含めて判断するのか。

おそらく、答えはどれかひとつではありません。大切なのは、数値を信じることだけではなく、数値を冷静に見て、適切に判断する力を持つことだと思います。

パワーメーターを使ううえで大切なのは、数字を否定することではありません。表示された数字に囚われすぎず、実際に感じた違和感を無視しないことだと思います。